「名前呼ばれるの嫌い?」
「そんなんじゃないです…」
「じゃあなんで?」
「……………」
「最近ね、何故か俺もアンタの事『狂の女』って呼ぶの嫌なんだ」
「だから」
―――だって、
「だからアンタの事『ゆや』って呼びたいんだけど」
「やめて下さい…」
「俺の事も『ほたる』って呼んでいいよ?」
「いや…そういう問題では…」
「元気ないね、大丈夫?」
―――だって。
私の事名前で呼ぶ人なんて…
「ゆや?聞いてる?」
―――だめ。呼ばないで。
「やめて…下さい」
「なんで嫌がるの?」
「………思い出すから」
「誰を」
「兄様を」
「誰?」
「知らなくていいです」
「知りたい」
「……ほたるさん…」
「知りたい知りた……あれ?何の話だっけ?」
「……………」
―――こういう人なんだ、この人は。
「いいですよ」
「なにが」
「名前…呼んでも」
「そっか、よく分かんないけどよかった」
―――もう、いい。
知らない人が兄様と同じ様に私を呼んだって、
もう、どうだっていい
(私がこんな事思うなんて)
「ゆや」
「! っあ…はい!?」
「そんなに驚かないでよ」
「あ……すいません」
「これからたくさん呼んであげる」
「え?」
「改めてよろしく、ゆや」
―――ああ、この人といると。
体中の毒気が抜かれてしまう。
勿論それは良い意味で。
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