「亜紀人君、買って来たよ」
そう言って目前の眼帯少年の隣に座る少女。
赤いフレームの眼鏡の奥には優しげな大きい瞳が見える。
栗色のふわふわした髪から香る甘い林檎の様な香りが少年の鼻先を擽る。
――林檎の様な。
「わーい!有難うリンゴ姉さん!」
「ごめんね、遅くなっちゃって」
「大丈夫。こっちこそごめんね、急にお腹空いちゃって」
「いいよ、私もお腹空いてたんだ」
そう言って手に持っていたビニール袋を広げる少女。
弁当、ジュース、おにぎり、菓子…二人が座っている青々とした芝生はコンビニ系飲食物で埋め尽くされた。
その量を見る限りではチーム「小烏丸」への差し入れが大半の様だ。
「うわー!美味しそー!」
「いっぱい買ってきたから、ジャンジャン食べちゃって」
「うん、本当に有難うリンゴのお姉さん」
コンビニ帰りの彼女の表情は晴れやかだ。
「あはは、別に呼び捨てでもいいよ?」
「そう?」
「うんうん」
「じゃあ、リンゴ………」
少女の心臓が不意にどきっと跳ね上がる。
「…………さん。」
「 あ、 うん」
「あはは。顔真っ赤だよリンゴさん」
「も、もう!からかわないで…」
自分から言い出したにも関わらず、少女は赤面していた。
少し離れた校庭では「小烏丸」のメンバー達がA・Tの練習に奮闘している。
宙に舞っては、地に落ちた。
「美味しいね、このお弁当」
「でしょ?私のオススメ」
「リンゴさんのお菓子も美味しそう」
「はは…コンビニの小さいケーキとかつい買っちゃうんだよね…」
「それ、苺のショート?」
「そう。亜紀人君達の分もあるよ」
「良かった!ケーキ大好きなんだ」
そう。
だいすきなんだ…
「へー、甘党なの?」
「うん!僕はね」
「え?『僕は』…?」
周辺の空気が変わった様な、妙な違和感を感じた少女は同時に寒気も感じる。
何かがおかしい。
「亜紀人君、何言って…」
「ファック!まだ分かんねぇのかメガネ女」
「!!」
そう、眼帯の位置が、いつもと違う。
先程まで其処に居た「亜紀人」は「咢」に変わっていた。
「っあ……咢君!何時の間に…っ」
「気付くの遅ぇよ『リンゴさん』。 ハッ…」
「なっ…!?」
「少し亜紀人の真似して猫被ってたらすっかり信じやがって」
「い、いつから…」
「さあ?」
「ちょっ、ちゃんと言ってよー!は、恥ずかしいじゃない…!」
「ファック!騙される方が悪い」
「………もう…」
少女は一気に驚いたり赤面したりし、ぐったりとした。
「あー、気持ち悪ィ…亜紀人の奴のクソ明るい声真似るなんてな」
「本当びっくりした…そんなに嫌ならどうして真似したの?」
「……鈍感すぎんだよ、スク水仮面」
「え?今何て?」
「何でもねぇよ、メガネ女」
ファック、と小さく呟き空を見上げる少年。
少女はほんのり顔を赤らめながら下を向いた。
話す事も無く、沈黙が痛かったから校庭の方を向き苺ショートケーキを再び口に運ぶ。
そんな沈黙を破ったのはやはり少年で。
「なあ、そんなに美味いかソレ」
「えっ……うん、まあ…」
「食わせろ」
「は…はいぃ!?咢君が!?」
「亜紀人と違って俺はあんま食わねぇからな…何だその目。味見だけだ、アジミ。」
(嫌味たっぷりに言わなくても…本当に俺様なんだからー!!)
「わ、分かった…今あげるから」
「何やってんだお前」
「何やってるって…だからケーキ欲しいんでしょ?」
「コンビニ袋ゴソゴソ漁りやがって。馬鹿みてぇだ」
「なっ」
「俺が言ってるのは『こっち』だ…」
言ったが早く、赤フレームの眼鏡が外され、放り投げられる。
何すんのよと言う暇もなく、ふわふわの髪も未だ成長している豊満な胸も小さな肩も。
全て少年の細い腕が絡み、包まれる。
少年は驚いている少女の赤い頬に触れ、唇に自分の唇を半ば強引に押し当てる。
(こうなりゃ、もう簡単だ)
ちゅうう、という音を立て一気に唇を吸い取る。
一旦唇を離すと、目の前には瞳を大きく見開いて驚く少女の顔が在った。
口の端を上げて微笑してやると、少女の眉は吊り上がる。
――怒ったか。
殴らせる隙も与えず、そのままもう一度唇を押し付ける。
ただし今度は口をこじ開け舌を入れた。
少女の口内を味わう様に舌を動かす。
「あっ……ふ」
「甘い」
「んむ…………っは…やめっ……」
「随分…可愛らしい声で鳴くじゃねぇか…ん?」
「あぎ……と………君っ……!」
ガリッと、嫌な音がした。
「……ふん、ご馳走様」
「最低っ」
校庭で駆け回る仲間達の元へ走り去る少女。
少年は血が滴る舌の痛みを噛み締めながらその背中を見つめた。
「ったく、二度も噛まれるとはな」
ただ、伝えたかったんだ
「ケーキ美味かったぜ」
たった一言。
「またな…リンゴ」
ただ、見たかったんだ
「………しっかし伝えられず終いかよ…」
君の顔。
「…ファック」
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