この第三の能力が身についたのは本当に「幸運」だった。
切羽詰っていた私を救ってくれる能力――神の様な神々しささえも感じるこの能力。
「キラークイーン…『バイツァ・ダスト(負けて死ね)』……か」
私はこの能力をとても気に入っている。
その日はとてもスガスガしく、私は鼻歌交じりに身なりを整えていた。
ああ、鏡に映る私はなんて機嫌が良さそうなのだろう。昨夜と同一人物とは自分でも思えない。
無敵の能力を手に入れた私は、今まで通りに生活することを許されただけでなく、
あの邪魔者――東方仗助達をいとも容易く消せる様になったのだ。
今度こそ私は二度目の「平穏なる人生」を手に入れたと言えよう。
「はいあなた……お待ちどう様…新しいコーヒー入りましたわ」
自分の世界に浸っていると、川尻しのぶ――もう堂々と妻と呼んでいいのかな――が頼んでいない筈の新しいコーヒーを淹れていた。
私は少し迷ったが、もう一杯だけ飲んで会社へ行く事にした。
なんていい朝だ。
たった今解ったのだが、私は「家族とは何と良いものなのだろう」と、ようやく一般的な思考に追いついた様だ。
昨夜は早人の事もあった所為かその考えを必死で打ち消そうとしたが、
気分が良い所為かもしれないが…今はすんなりと受け入れている。
きっと、しのぶのお陰だ。
彼女があまりに自分の思い通りの、所謂「良い妻」だから今は楽しいのだろう。
早人には少し問題があるが、バイツァ・ダストを仕掛けている限り私は絶対安全だ。
――平穏で、静かな人生。私が望むのはそれだけだ。
殺人衝動は今も抑えられないが、それは性なのだから仕方が無い。
私は今まで通り、いや、今まで以上に幸せに暮らしてみせる。
私はコーヒーカップを受け皿ごと持ち上げた。いい香りだ。
隣には妻がいる。私の様子を嬉しそうに見つめる、しのぶがいる。本当に良い妻だ。
どうやら私の自惚れではなく、私に――川尻浩作ではなく、この吉良吉影に惹かれている様だし、彼女だけは何があっても私の味方だろう。
そうだ、今日からはお出かけのキスとやらでもしてあげようか。
そんな事を考えながらカップに口を近づけた、その瞬間。
ガシャンッ
「あああッ!」
妻が軽く悲鳴を上げた。
そして左腕――手首の辺りが燃えるように熱い。その熱は痛みへと変わる。
何故かコーヒーカップの取っ手の部分がポロリと抜け落ちたのを覚えている。
急落下したカップが受け皿と傍にあったポットを巻き込み粉々に割れたのだ。
ついでに私の手首にも淹れ立てのコーヒーが「ブッかかった」という事か。どうやら火傷をしたらしい。
――今の壊れ方はどう考えても不自然じゃないか?
「た…大切にしている……ウ……ウェッジウッドの……」
しのぶが割れたカップやポットを凝視する。ショックを受けている様だ。
私達が固まっていると、早人が飛びつくようにしのぶの元へ駆け寄って来た。
まるでその場を切り裂くように。
そして、
「それじゃあママ!学校へ行って来ますッ!」
しのぶの頬にキスをした。
しのぶは普段無口な自分の息子が思いもよらない行動をとったので唖然としている。
早人は何か――決意めいた視線をこちらに送ると、自分の学生帽をチラリと見て、それを被らないまま走り去った。
ドアのバタンという音が鳴り響いた後、割れたカップを見つめた私は全てを理解した。
――あの小僧。
既に何度か「今日」をやり直している。
だからウェッジウッドが割れる事も、私がしのぶにキスしようとした事も知っていたという訳か。
そしてあの眼は。何か糸口でも見つけたというのか?
色々な事が数秒のうちに続き、しばらく放心していたしのぶがようやく口を開く。
「信じらんない…やっぱりあいつ何考えてるかわからないわ…キスしてったわ………」
「でも……」
「けっこう悪くないって気分だったりして」
そう言いクスッと笑うしのぶは少し嬉しそうだ。
私は少し考える。
早人は何かに思い至った筈だ。しかし所詮はたかが11歳の小僧…この吉良吉影が警戒する程の策ではない筈だ。
なのに。
(何だ?嫌な予感だと?この吉良吉影が?)
大丈夫だ。私は無敵の能力を持っている。絶対大丈夫だ。
「あ…いいの」
「あたしがかたづけるから 割れちゃったものは仕方ないわ」
せっかく手に入れた能力と平穏だ
「またおこづかい貯めて買えばいいんだし……」
手離す気などない
「それよりヤケドしなかった?」
――ああ、
今思えばこれが最後の「平穏」だったんだな。
―――――――――――――――
45巻、第四部ラストバトル前。
四度目で最後の朝・・・書いてて辛い(汗)
こうしてみるとなんか4づくしですね。不思議。
もっと吉良しの的にしたかった・・・無念。
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